僕は浮気相手だったけど嬉しかった

浮気されても好きだった高校時代の恋愛

高校2年生の秋、僕はとある寿司屋でアルバイトを始めた。初めてアルバイトで右も左も分からない僕は、その時の上司に言われるがまま働いていたのを覚えている。
ある日休憩室で休んでいた時、店長から「このビデオ観ながら笑顔の練習しな。君は笑顔が堅いから顔の筋肉もほぐれて良い顔になるよ。」と言われた。

 

言われるがままビデオを観て、頬を膨らませてぶくぶくするような運動をし始めた時、近くに座っていた歳上の女性(以下Aとする)から「可愛いね(笑)」と言われた。その時の僕は女性に対する耐性がなく、「はぁ、ありがとうございます。」と素っ気ない返事をした。それ以降、Aは何かにつけて面倒をみてくれるようになった。

 


Aともそこそこ仲良くなり、たまに遊びに行ったりするような仲になった。アルバイト4人でご飯を食べに行った時好きな人の話になった。その時僕は歳上の背の小さくて可愛らしい女性(以下Bとする)が気になっていた。「いやー僕は今Bさんが好きなんですよ。歳上だけど誰にでも優しくて礼儀正しいし、何より守ってあげたくなりますよね。」それを聞いたAは複雑な顔をしていた。

 


ある日の夜中、Aから遊びの誘いがあった。高校生なのに割と夜遊びをしていた僕は特に何も気にすることなく承諾してAが迎えに来るのを待っていた。車に乗り込んで暫く走った時、人気のない方向へ向かっているのに気づき、「今日はどこ行くの?2人だけ?」となんとなく聞いた。Aは何も言わず、深刻そうな顔をしていた。しばらくしてひっそりとした川沿いの道に停まった。街灯もなく真っ暗な中でAの顔も見えない程だった。突然Aは「私ね、彼氏がいるんだけど、他の人を好きになっちゃったの。

 

その人は歳下なんだけど、凄く大人っぽくて落ち着いていて、何より人を大事にしてくれる人なの。こんな私は悪い人かなぁ。」と言った。僕は正直恋愛相談なんて困るとか思っていたけど、「Aが好きになった人と一緒になるのがいいんじゃないかな?彼氏がいるって言っても法的に縛られてる訳じゃないし、自分の気持ちに正直になった方がいいと思う。」と、ありきたりな事しか返せなかった。

 

すると、「告白しちゃっていいのかなぁ?今隣にいるんだけど。」鈍感だった僕は何言ってるか分からなかったけど、「良いじゃん、告っちゃえ!」と言った。Aは「もうしたよぅ…」と。必死に意味を理解しようとしてるうちに、自分がその相手だった事に気がついた。驚いた反面、女性と付き合った事のなかった僕はめちゃくちゃ嬉しかった。返事に困っていると「どうかなぁ…?」と心配そうに聞いてきた。僕は「あー…嬉しいよ、Aさえよければ是非…。」と答えた。浮気相手になるって事は分かっていたけど、告白されたのが嬉しすぎて関係ないと思っていた。

 


その後は2人でイチャイチャ。浮気ってのを理解した上で何回も遊びに行った。僕のファーストキスも、初体験もAだった。僕は周りには浮気相手だとは言えず、「彼女が出来た」と嘘をついていた。友達にもアルバイト仲間にも言えなかった。

 


3ヵ月程経った頃、Aは言った。「このままじゃ君は私のせいでダメになっちゃう。浮気相手って苦しいでしょ?私が帰ったあと、いっぱい泣いてるの知ってるよ。」と言った。面食らったがその通りだった。Aの彼氏は社会人。自分は経済力のない高校生。もちろんAを養うお金なんてないから、僕と遊んだ後でもAは彼氏の元へ帰っていく。それが辛かった。自分のものに出来ない悔しさが溢れ出して毎回泣いていた。それでも良いと、耐えられると思っていた。「君の泣いた顔を見たくないから、もうこれっきりにしよ。…ごめんね」それっきり連絡が取れなくなった。

 


僕はその日からご飯も喉を通らない。完全に無気力状態になり、学校も休んでいた。両親はうつ病を心配して病院に連れて行ったりもしたけど、失恋なんて恥ずかしくて言い出せなかった。4日程何も食べれずぼーっとしていた時、ふと思い出した。Aと遊んでいる時、1度だけ彼氏と同棲している家の駐車場まで行ったことがある。その記憶を頼りに行ってみようと思った。

 

時間は午前1時頃。外は寒かったが、暖かい格好をして自転車に飛び乗り必死に漕いだ。幸い近かったので30分程漕いだら割とアッサリ着いてしまった。「衝動的に来ちゃったけど、どうしよう…。」悩んだ僕はAにメールをした。内容は衝動的に来てしまった事。それに対する謝罪文。後は、最後にもう1度だけ会いたいという事だった。

 

しばらく待って、もしかしたらAが飛び出してきて抱きしめられるんじゃないかとか妄想したけど、当たり前のようにAは出てこない。見慣れたAの車があるのが、妙にリアルで辛かった。
諦めて帰り始める。15分程漕いだ時携帯が震えた。メールだ。もちろん相手はAからだった。

 

「何考えてるの?今私は彼氏の家にいるんだよ?もしバレたら私は出ていかなきゃ行けないんだよ。」まさか怒られるとは思っていなかったからビックリした。その後連絡しても返事はなかった。
自分のしてしまった事に後悔しつつ2日ばかり経った頃、流石に学校に行かなければ出席日数がヤバイ事になっていた。しぶしぶ学校へ行ったが上の空。Aの事ばかり考えていた。

 


その日の夜、Aから電話がかかってきた。僕は思わず飛びついて電話に出た。「今から会える?」外に目をやると家の前にAの車が停まっていた。慌てて準備して飛び出してAの車に乗る。お互い無言で、告白された川沿いの道まで来た。「どうしてあんなことしたの?」「耐えられなかったんだ、Aが彼氏といることが。」「だから私はこれっきりにしようって言ったんだよ。

 

私が勝手に君のこと好きになって、辛い思いをさせるのは耐えられなかった。」「僕にはそれが耐えられないんだ!もう好きで好きでたまらないんだ!」Aは黙っていた。それ以上何も言えずに少し時間が経った。Aは泣き出してしまった。「私の勝手であなたを好きになって、私の勝手であなたを傷つけてしまった。ホントにごめんなさい。やっぱりこれ以上あなたを傷付けたくないから、これで終わりにしよう…。」何も言えなかった。

 

否定も肯定もしたくない、だって答えは決まっていたんだから。僕が口を開きかけた時Aは言った。「でも…心から愛してたよ。きっと一生忘れない。」僕は涙が止まらなかった。

しばらくして、Aはバイトを辞めた。ホントに接点が無くなってしまったけど、僕の心の中にはずっと残っていた。

 


今では僕も結婚し妻子持ち。今頃Aはどこで何をしているか分からないけど、きっと幸せになっているのかなと思う。もちろん今の妻子を愛しているから、Aに対して未練なんてこれっぽっちもない。しかも、今思えば結構酷いこと言われてたと思う(笑)。でもAと過ごした時間が確実に僕を大人にしてくれた。たまに切なくなることもあるけど、お互い幸せに別々の道を歩んでいることを願っている。